【タイプ別 子供の矯正・不正咬合の種類と治療方法(1)】では、横顔のバランスに関連の深い上顎前突と下顎前突の子供の矯正について、【タイプ別 子供の矯正・不正咬合の種類と治療方法(2)】では前歯の噛み合わせの深さにかかわる不正咬合、過蓋咬合と開咬について説明しました。
このページは【タイプ別 子供の矯正・不正咬合の種類と治療方法(3)】として、歯並びのスペースに関わる不正咬合である、歯並びのデコボコと空隙歯列(すきっ歯)について説明します。
歯並びのデコボコ・子供時代の対応
歯並びのデコボコというのは要は、歯の生えるスペースが不足していることからおこります。
多少のスペース不足であれば、どうにかやりくりすることで綺麗に歯を並べることを考えます。しかしどうしてもスペース不足の問題が解決できない場合、永久歯列の歯列矯正であれば抜歯をして対応せざるをえません。しかし乳歯の混在する子供の時期にはそもそも抜歯をしても次の歯が生えてくることもあり、多くの場合根本的な解決が難しい、というのが歯並びのデコボコ(叢生)の解消を考える際の大前提です。
歯並びのスペース不足を解消する方法
歯並びのスペース不足を解消するには、必要なスペースを減らすか、スペースそのものを増やすかのどちらかしかありません。具体的な方法は下記の通りです。
a) スペースを増やす
・前歯を前方に傾斜させる
・歯列を横方向に拡大する
・奥歯を後方に移動する
b) 必要なスペースを減らす
・永久歯の歯の幅を削って減らす
・永久歯を抜歯する
永久歯列の歯列矯正で、スペース不足の問題がある程度以上大きく仕方のない場合は小臼歯などの抜歯をします。しかし永久歯と乳歯が混在する子供の場合、歯並びや噛み合わせの将来像がはっきりとしない成長期の段階で永久歯を抜歯したり削ったりすることはそもそもリスクが大きいと感じられます。だからといって乳歯を抜歯しても後継の永久歯が出てくるスペースが必要なのでやはり解決にはならないので、ある程度以上は永久歯列をまって最終的な解決をするというのが基本的な矯正治療のながれになります。
ここでも、それぞれの患者さんにあっている適切な方針を選択することが重要で、子供時代にある程度の対応をしておくと不正咬合の問題を軽くし、将来の矯正治療をスムーズで良好な結果を得やすくするもの、ということは他の不正咬合と同様です。
むやみな抜歯は避けるべきものなので、多少の工夫や、場合によっては多少の妥協により抜歯を避けられるように矯正治療の方針を考えることも必要ですが、一方で弊害を考慮しなかったり、または現実味のない非抜歯での矯正治療が横行してる現状もあるので、いずれも正しい理解と診断が重要ということになります。
子供時代におこなう歯列の拡大により、どの程度まででこぼこの問題が解消できるかは患者さんにより異なります。。大体の場合、前歯4本程度のデコボコは解消できますが、犬歯まですべてのでこぼこが拡大のみで解消できるケースは一部です。また、歯列の側方拡大で得られたスペースは上下の歯列の前後的なズレの解消には役に立たないので、いくらかくだいをしても上顎前突や下顎前突の問題は解決できない点も重要です。
でこぼこに対してスペースを増やす(1)前歯を前方に傾斜
前歯を前方に傾斜させ、歯列のアーチの「円周」を大きくすることでスペースを増やし、でこぼこを解消します。歯列を拡大する方法としては比較的行いやすい方針の一つです。しかし過剰に前方傾斜させすぎると顔に対して口元が前方に突出してしまったり、上下の前歯の角度が悪くなり噛み合わせに悪影響となる場合もあるので、適切な範囲にとどめることが重要です。
でこぼこに対してスペースを増やす(2)歯列を側方に拡大
歯列を横方向に拡大してスペースを増やす方法で、前歯の前方傾斜と同様比較的行いやすい方針の一つです。犬歯部分での側方拡大が前歯のスペースの増加に役立つ一方、大臼歯部分での拡大はほとんど、でこぼこの解消には関与できません。
拡大方法には、犬歯〜臼歯を外側に傾斜的に移動して歯列を側方拡大する「緩徐拡大」と、歯の土台である歯槽骨ごと拡大をおこなう「急速拡大」があります。急速拡大のほうが大量の拡大が可能ですが、上顎にしか適用できず下顎は歯槽骨ごとの拡大は不可能です。
生理的に可能な範囲の拡大に留めることが重要なのはもちろん、上顎か下顎の片方だけ拡大を行う場合や、上顎に急速拡大を用いる場合など、拡大しすぎると上下の歯列幅が一致せず噛めなくなってしまわないよう配慮することも大切です。
適度な側方拡大はデコボコの問題をやわらげ、場合によっては子供の時期のうちにでこぼこの問題を解消できてしまう場合もあり有効なものですが、程度や方針を誤らないように適用することが重要です。すべてのケースで完全にでこぼこが解消できるとは限らず、でこぼこがなくなるまで拡大するのは無理な場合も多いので、見誤らないようにする必要があります。
でこぼこに対してスペースを増やす(3)大臼歯の後方移動
大臼歯を後方に移動することで歯列全体の長さを増やす方法もあります。大臼歯の後方移動は側方拡大や前方拡大と比較すると労力の大きな方針ですが、そのためのさまざまな矯正装置が考案されています。
ただし後方にも無限に移動ができるわけではなく、そもそもどこまで後方移動が可能な歯槽骨の状態か、ということに加え、小学生の時期に大臼歯(6歳臼歯=第一大臼歯)を後方移動することでむしろ、中学生ごろに生えてくる12歳臼歯(=第二大臼歯)の萌出スペースが不足して、奥歯の歯並びと噛み合わせがわるくなってしまう可能性もあるので、やはり症例によって現実的な範囲での後方移動に止める必要があります。
歯列の拡大ではスペース不足の問題が解消できないときは
上記のような方法ででこぼこの問題が解消しきれなかったときは、上下全体の歯列矯正が可能となる永久歯列期を待って、必要に応じて抜歯を併用したり、多少なら歯の側面を削ることによるサイズ調整などできちんと矯正治療をおこなう計画をたてます。
不正咬合の問題はでこぼこだけを考えれば良いわけではなく、出っ歯や受け口など噛み合わせの問題や顔全体とのバランスなどを考慮する必要があるため、全体を総合的に考えて抜歯の必要性などを判断することになります。
空隙歯列(すきっ歯)
でこぼことは逆に、歯並びに隙間が余ってしまう場合にも様々な原因があるので、原因に応じた適切な方針が必要です。
空隙歯列の原因
・歯の本数が通常より少ない
・通常より小さい歯(矮小歯)がある
・舌癖があり、舌で内側から押されるなどして、歯列が外側に膨らんで並んでいる
など
子供の時期の空隙歯列期におこなう矯正治療は
舌癖などの癖がある場合は、癖を解消するのがまず重要です。歯列の内側から舌が歯を押す力がなくなれば、空隙歯列が自然に治ってくることが多く、習癖の除去がまず重要なのは空隙歯列の場合もど同じです。癖がなくなるように意識すれば良いレベルから、筋機能訓練(MFT)を行う場合、またタングクリブ、クリブプレートなど舌が内側から前歯を押すのを防ぐ矯正装置を使用する場合もあります。
また前歯にセクショナルアーチ(部分的なマルチブラケット装置)を使用して歯を移動し、前肢などを部分的にきちんと並べておく方法もあります。
歯の本数が通常より少ない場合や矮小歯がある場合の最終的な歯並びと噛み合わせは、将来の永久歯列期の歯列矯正を計画する際に、最も良い状態に治るように治療計画を立案するようになることがほとんどです。
まとめ
歯並びのでこぼこや空隙歯列の場合も、無理に子供のうちに全てを解決しようとせず、必要に応じて長期的な展望で矯正治療を考えることが重要です。極端に抜歯を避けようとしたり小学生のうちに無理にすべてを解決しようとするあまり、無理な拡大をおこなったり、顔貌とのバランスを悪くするような治療を行うことがないようにしなければなりません。最終的に必要であれば、抜歯を伴う歯列矯正を行うことも視野に入れたうえで、この時期の治療として予測できる範囲、リスクのない範囲にとどめるという考えも大切と思います。
またどのような不正咬合でも、舌をはじめとする口元の癖(口腔習癖)を解消することが非常に重要です。不正咬合の悪化や治療終了後の再発防止のためにも重要ですので、習癖に気がついたら習癖の除去に努めましょう。