矯正治療を検討されている患者さんにとっては様々な疑問や不安があることでしょう。矯正歯科を初診する前に、色々と情報収集したいのも事実。実際のところ、歯科医院に問い合わせをされる患者さんの質問はなかなか簡潔にはまとめられない質問をされることが多々ある一方で、矯正歯科は本来「治療」が業務なので、不意に訪れる電話問い合わせに、いつでも詳しく丁寧にこたえられる時間があるわけではありません。
矯正歯科にとっても、矯正治療をするうえで患者さんとの信頼関係はとても大切だからこそ、患者さんにとっても、やみくもに自分の悩みを電話問い合わせにぶつけてみても、電話応対では答えようのない質問も多々でてきます。
これから矯正治療を始める患者さんと矯正歯科とが良い信頼関係を築くためには、どのようなファーストコンタクトが望ましいのか、現実的に歯科医院ではどの程度の内容まで電話対応が可能なものか、ということを電話問い合わせという観点で考えてみます。
歯科医院内の役割分担から考えてみる
矯正歯科の職員はおおまかに、歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、の3種類です。
治療そのものをふくむ歯科医院の業務のうち、誰がどこまでして良いか、ということがまず国家資格的に分類されています。国家資格的にゆるされている業務の範囲を踏まえて、それぞれのクリニックの組織の役割分担(院長とか担当医とか)として業務が分担されているということになります。そのうえで、歯科衛生士や歯科助手にどの程度の対応までを業務としているかは各クリニックの体制によって異なります。
歯科医院の電話対応をしているのは誰?
歯科医院内で、電話対応の業務をしているのは主に「歯科助手」です。職員の構成により「歯科衛生士」が電話応対の業務までおこなっていることもありますが、いずれにしても、「歯科医師」が直接電話応対していることは稀と思われます。
「歯科医師」「歯科衛生士」というのは国家資格で、歯の治療の内容や結果に根本的に影響する業務は歯科医師しかできないことになっています。例えば「歯を削る」という治療行為は法律上歯科医師のみに許可されているもので、歯科衛生士はできません。歯科衛生士は、歯科医師の指示監督のもと治療結果を直接的に左右しない範囲の処置が法律上許可されています。
矯正治療の場合には、患者さんの不正咬合の状態に合わせた適切な治療の計画や、現状にあわせた治療・処置内容の判断などは歯科医師の責任であり業務となり、実際の処置のかなり広い範囲で、歯科医師が指示して歯科衛生士に処置してもらうことが可能となっています。
しかし実際には、歯科医院には治療そのもの以外にも様々な業務があります。そのなかで「歯科医師」「歯科衛生士」といった国家資格者のみに許可されている業務以外を担うのが「歯科助手」であり、受付・電話応対といった業務も主に歯科助手の業務となります。
矯正歯科の電話に出るヒトは、どのくらい矯正治療に詳しいの?
正直なところ、資格で能力が左右されているわけではありません。知識も経験も乏しいなりたての歯科医師もいれば、矯正治療全般に非常に詳しい「デキる歯科助手さん」も多数いらっしゃって、そういった方々の力をお借りすることで歯科治療全体が成り立っている、というのが歯科医院の実際です。
しかしながら、「患者さんの状態から適切な処置・対応の内容を判断する」ということ自体は、歯科医師のいわば業務独占資格であって、その部分の応対や責任を歯科助手にもとめてはいけないもの、ということが歯科治療の前提です。
歯科医院で主に電話応対をしているのは歯科助手のことが多いので、新規の患者さんが電話で尋ねる内容としては、「事務的な範囲」の内容とするのが適切なのではないでしょうか。込み入った質問の場合、院長はじめ歯科医師による対応が必要となりますが、根本的に業務時間内は来院されている患者さんを治療している最中のことが多いわけなので、治療を中断させてまで電話問い合わせに対応させる、ということの是非については、治療中の患者さんと歯科医師双方の立場から、正直疑問を感じます。
問い合わせの内容から考えてみる
矯正歯科としても回答のしやすいのは事務的な問い合わせ
予約業務や通院中の患者さんとの連絡など本来の受付業務以外では、「休診日、受付時間」「矯正治療の料金」「予約の取り方・初診の予約」といったところが本来問い合わせとして想定されている範囲だと思います。また、「裏側の矯正はしていますか?」「唇顎口蓋裂の治療はしていますか?」「ホワイトニングやPMTCはできますか?」といった自分の希望する治療への対応についてあらかじめ尋ねることも、ミスマッチを避けるために大切な問合せです。
こういった問合せは、非常に重要な内容であると同時に簡潔で事務的な質問なので、本来の受付業務としてきちんと対応できます。
一方、治療の内容や方針にかかわる質問ということになると、実際の患者さんの状況により様々で、またあまり無責任な回答もするわけにいかないということもあり、電話での応対は困難なものになってしまいます。
多少複雑な事情は簡潔な質問で!
初診相談に来院されてからミスマッチに気づく、ということを避けるためにも、複雑な事情がある場合はあらかじめお話しいただいた方が良いのは事実です。しかし電話での対応には限界があるので、電話での問い合わせhが簡潔に伝えられる範囲にしていただいて、それ以上具体的な内容については問い合わせ先のクリニックで対応が可能なようであれば初診の受診をして尋ねていくというのが理想的と思います。
例えば、
・海外で矯正治療中に帰国することになったが、その続きの治療は可能か?その場合の費用はどのくらいか
・引越しに伴う転院はひきうけてもらえるか?
・遠方からの通院となるが、治療は可能か?
・他院で治療中の矯正装置を紛失したが、応急対応は可能か?
・矯正治療は終了しており、保定観察(メンテナンス)だけ対応してもらえるか?
・厚生労働大臣の指定する、矯正治療が保険適用となる先天性疾患である
・全身状態や病気等で大きな問題がある、長期的に影響がある
などなど、クリニックの方針や事情によって対応できない可能性がある問題については、簡潔に説明・質問したうえで初診の予約するべきでしょう。
受付で応対しきれない問い合わせについては、院長なり歯科医師に質問内容を伝達することになりますので、電話をとった受付の者が伝達しやすい簡潔なお質問をされることが、必要な情報を引き出すための問い合わせのコツと思います。
診察や検査をしないとわからない問題は電話では解決できない
矯正治療をするときに歯を抜くかどうか、顔が曲がっているが健康保険が適用になるかどうか、といった「検査診断をしてみないと確定できない」質問を電話問い合わせするのは不毛と感じます。
最近は色々なウエブサイトでの情報提供も豊富です。しかしウエブサイトなどに掲載されている情報は電話問い合わせ以上に一般的な内容に限られます。
「自分の場合はどうなのか?」というのが最も知りたいところにはなりますが、それは矯正治療を前提に検査診断したり、実際に治療をしてみないとわからない内容のことも多々あり、そういったご質問について電話問い合わせをしても一般的な回答以上の答えはありません。
他のクリニックでの説明や治療について意見を求められても答えられない
歯科の医療広告ではセカンドオピニオンという言葉だけが誤解を伴いつつ一人歩きをしてしまいました。
本質的にセカンドオピニオンとは、患者さん一方からの不安や不満を述べるためのものではなく、第三者の立場からの客観的な判断を得るために現担当医からの依頼が必要なものです。
患者さんの現在に至る状況を、きちんと客観的に把握した上で意見を申し上げなければ誤解を生じたり、間違った意見を述べてしまう可能性があるので、他院での治療について軽々に意見をするということは非常に軽率なことになってしまいます。また、医療施設や歯科医師によって見解のわかれる問題もあるため、医療従事者としては他院での説明の是非について意見することもできません。
そのような必要がある場合は、現担当医に依頼状・紹介状を用意してもらったうえで、「セカンドオピニオンを受診したいので、現担当医から貴院あての紹介状も用意してもらいました」ということを明快に伝達する必要があります。またセカンドオピニオンは健康保険が適用できず、自費診療となるので事前に料金を尋ねることも大切です。
通院する(つもりの)クリニックを初診しましょう
矯正治療の治療方針は、患者さんの診察をして、患者さんとお話をして、詳細に患者さんの検査をして初めて決まるものです。
矯正治療としての一般論を踏まえた上で個別の事例を考えていくものとなるため、各々の患者さんの場合に実際にどのようにすると良いのか、ということについては患者さんごとに異なる様々な要因を考慮して検討をしていきます。
一方、実際の矯正治療の方針や計画の取捨選択、という判断は治療を担当する歯科医師によって考え方が異なる場合がでてきます。そのため、矯正歯科や担当医により多少意見が異なることも珍しくはないという事情もあり、通院するつもりがないクリニックへの問い合わせや初診はあまり意味がありません。
複数の候補を比較検討することも、自分自身にとってのミスマッチを防ぐために役立ちますが、情報収集のためだけの初診は患者さんにとってもクリニックにとっても、時間的にまた内容的にも無益になってきます。
不十分な情報に基づく一般的な内容をいくら収集しても、患者さんにとって満足のいく内容に至らず、ましてや最終的に受診するつもりのないクリニックへの情報収拾のためだけの電話などは皆にとってあまり建設的なことになりません。
患者さんにとってもクリニックにとっても、ある程度から先は検査診断をしたり、場合によって実際に治療を開始してみて情報の解像度を上げていくことが必要になってきます。矯正治療も医療行為の一つであり人間の体を取り扱う以上なかなか予定通りに進まないこともあるなか、他の診療科同様、よりよく試行錯誤と繰り返して治療を進めていくものです。矯正歯科の選定にあたっては、長期の治療を円滑に進められる関係を構築できるクリニックを探していく、ということが最終的に大切と感じられます。