矯正治療をしたい!と思った時、まずは矯正歯科を初診して相談をする必要があります。
「矯正歯科の選び方」と検索すると実にさまざまなウエブサイトが表示され様々な意見が述べられていますが、実際にどの様な観点で矯正歯科を選べば良いのでしょうか。
矯正治療を始める前に想定するべきこと
矯正治療をうける矯正歯科を選ぶにあたり、矯正治療がどのようなものかをある程度把握しておくと判断しやすくなります。
・不正咬合の状況によりますが、2~4年程度の期間、定期的に矯正歯科に通院する必要があります
・たいていの場合、矯正治療は健康保険が使えず自費診療となりますので、治療費用は高額なことが多く矯正歯科により費用は異なります
・健康保険が使えるのは、顎変形症、先天性多数歯欠損(6本以上)と厚生労働大臣が定める先天性疾患などに限られます
・顎変形症として外科矯正の方針となり健康保険適用が可能かどうかの判断には検査診断が必要です。初診で確定できるものではありません
・基本的に、治療終了までひとつの矯正歯科で治療をうけることが原則です。
概ねこの辺りを踏まえて通いやすい矯正歯科を探すと良いでしょう
矯正歯科を選ぶ際のポイント
矯正治療で求められる検討項目は大まかに、
・矯正治療の知識と技術がきちんとしていること
・誠意ある真面目な治療をしてくれること
・治療費用が明確であること
・自分にとって長期間通いやすい立地・時間・予約状況であること
・取り扱い矯正装置の種類
・矯正専門の矯正歯科か、一般歯科に併設の矯正治療のどちらを選択するか
といったところかと思われます。
矯正治療の知識や技術をどう計るか
日本矯正歯科学会認定医について
矯正治療の知識や技術レベルを推し量るというのは非常に難しいことです。
日本矯正歯科学会の認定医を目安と述べているWEBサイトも多々みられますが、日本矯正歯科学会認定医は大学病院矯正科在籍を前提として、矯正治療について一定の教育と訓練を受けたことを証明する制度ということができます。そのなかで、自分で治療を行った症例を提出する必要があるので、一定の治療レベルを証明する資格にもなっています。
たしかに日本矯正歯科学会認定医の取得もそれなりに大変なことではあり、なにより長期にわたり矯正専門として治療に携わった証ということになりますので、矯正歯科を選ぶ際のひとつの目安として活用する日本矯正歯科学会認定医取得はひとつの目安としても良いと思います。
ただし、大学病院矯正科での勤務経験を経ず開業の矯正歯科で修行された矯正医も多数存在します。
その場合矯正治療の習熟度にかかわらず大学病院矯正科在籍歴がないために日本矯正歯科学会認定医の要件を満たさず認定医を持っていないということになりますので、必ずしも認定医の有無が矯正医としての良し悪しを示す基準ではないということを念頭に矯正歯科を選ぶと良いでしょう。
症例を見せてもらえると理想的
一概にはいえませんが、自分の不正咬合と似た事例(症例)など見せてもらえると、その矯正歯科で使用している矯正装置の種類などもみることができ理想的でしょう。
ただし、矯正歯科により説明の仕方も異なりますし、患者さんに対する説明内容などにより、その部分にかけられる時間なども異なります。さらに、患者さんによって治療前の状況から、治療経緯、治療結果まで異なることが普通なので、症例提示がないからといって説明不十分と判断できるものではありません。症例を見せていただけた方が理想的、という理解がちょうど良いと思います。
矯正治療に必要な設備や診断を行っているかどうか
矯正治療の治療方針を診断するのに最低限必要な検査項目は下記の通りです。
・セファログラム(X線側貌規格写真)
・パノラマレントゲン写真
・歯列模型
・口腔内写真
・顔貌写真
このなかで矯正治療ならではの、矯正治療に必ず必要となる分析が「セファロ分析」といって、横顔から投影したレントゲン写真を用いて、上顎骨と下顎骨の位置関係や横顔のバランス、上下前歯の経ている角度などを計測する分析方法です。
矯正治療が単純に歯並びのデコボコを治すだけでなく、顔貌骨格・横顔とのバランスや噛み合わせなど総合的に判断して矯正治療の目標を診断するために必要なため、矯正治療の方針を判定する際にセファロ分析は必須です。
矯正治療にしか使用しない特殊なレントゲン装置なため、病院によってはセファロ撮影装置を設備していない場合もありますが、矯正治療を専門におこなう矯正歯科などでは必ず設備されているレントゲン装置です。
設備していないまでも、診断の際にセファロ分析を行っているかどうかは許すえ医診断をどのように行っているかを判断するひとつの目安となります。
矯正治療に必要な情報をわかりやすく提示しているかどうか
治療計画
治療開始前の段階で、抜歯の有無、歯科矯正用アンカースクリュー使用の有無、使用する矯正装置の種類、場合によっては手術の有無などのほか、一般的な治療期間の見込みなどがわかりやすくきちんと説明されていることが大切です。
診断の際にどれだけよく理解できたと思っても、長い治療期間のうちには詳細を忘れてしまったりわからなくなったりしますので、可能であれば、治療計画の概要について書面で提供されていると理想的です。
費用
大抵の場合健康保険が使えず自費診療となる矯正治療では、費用について治療開始前にきちんと明示されている必要があります。
治療費用が高額になりやすく、治療期間の長い矯正治療では治療費用を分割払いとする場合も多く、支払い計画や支払い済みの矯正費用等がわからなくならないように診断時に確認が必要で、しっかりと文書化されていると理想的です。
自分にとって通いやすい矯正歯科かどうか
通院可能な時間帯に診療しているか
矯正治療では年単位で定期的な通院を繰り返す必要があります。
最も頻度の高い場合で月1回程度なので、多少の無理は可能な通院かもしれませんが、時には応急処置の必要があったり、顎変形症の外科矯正などでは治療内容によって通院頻度の高まる時期があったりもします。
矯正治療を受けるということ、気に入った矯正歯科・矯正医の治療を受けるということに対する優先順位も患者さんによって異なりますが、長期間継続できる見込みで治療を開始することは大切です。
余談となりますが、一般的に週末や夕方遅くから夜にの時間帯の通院希望が多く混雑する時間帯となりますが、混雑時間帯のみでの診察希望は結果的に通院間隔が長くなりがちだったり、毎回の診療の時間が短くなりがちで治療期間の長期化などの要因となることも出てきますので、矯正歯科にとって治療にしっかりと手をかけやすい時間帯で通院するという工夫もあっても良いかもしれません。
時間の選択肢が多いということは、スタッフ(の比率)が多いということ
初診や診断の際に患者さんから「必ず院長先生が診察してくれるのですか?」と尋ねられることがあります。
とはいえ、院長先生の体も一つしかありませんから「院長が必ずすべての診察をする」という体制の矯正歯科では同時進行で診察することができないし、当然1日に診察できる患者さんの数は限られます。
そこで矯正歯科が一度にみられる患者さんの数を増やすには、衛生士さんなどに指示をして処置をしてもらう割合を増やすしかありません。その分同時進行で診察できる患者さんの人数が増えるので、患者さんにとっての時間的な利便も向上する、ということになります。
これもまた余談ですが、担当矯正医が全てを担当する体制の場合、予約時間の選択肢は狭まるものの、矯正治療の全体像にいつも目が届いているということは大きなメリットとなります。
一方、処置の一部を衛生士が行う場合、矯正処置にしっかりと習熟した衛生士が矯正医の指示のもと正しく処置を行えば処置の内容には遜色なく時間効率のアップにつながりますので、衛生士が処置の一部を担うということ自体は必ずしも悪いことではなく患者さんにとってもメリットのある話となります。そのあたりで万が一、治療開始後の実感の中で問題が生じるようならあらためて院長先生に相談をされると良いでしょう。
取り扱いのある矯正装置の種類
矯正治療を専門の歯科医院とはいえ、必ずしもあらゆる種類の矯正装置での矯正治療ができるわけではありません。
子供の矯正治療となると治療に対する考え方も多様で、伴って矯正種類の種類も様々なので、担当医にしっかり説明してもらうと良いと思います。
永久歯の歯列矯正の場合にはおおまかに、
・歯の表側にブラケットとアーチワイヤーを装着するタイプ(ラビアル)
・歯の裏側にブラケットとアーチワイヤーを装着するタイプ(リンガル)
・アライナー矯正(マウスピース矯正)
の3種類があります。
自分の希望の矯正装置で治療が可能かどうかなども、矯正歯科を選択する上で大切です。
ちなみに、歯列矯正をするのに、最も一般的で様々な状況に対応しやすいのはラビアルタイプの矯正装置で、矯正といえばラビアル、というのが矯正専門としては一般的です。
逆にアライナー矯正しか対応していない歯科医院ではラビアルなどでは矯正治療ができない歯科医院もあります。
アライナー矯正では、ラビアルなどの矯正装置を組み合わせて使用する必要が生じる場合もあり、自分の矯正治療に適切な対応が可能かどうかなども検討する必要があります。
また矯正装置の種類とは異なりますが、顎変形症の外科矯正などには対応できない矯正歯科も多々ありますので、自分の不正咬合に必要な治療が可能かどうかの見極めも大切です。
一般歯科での矯正治療と矯正専門歯科、どちらが良い?
一般歯科での矯正治療を受けるメリット
虫歯の治療や、歯周病、補綴治療などと並行して矯正治療を受けることができます。もともとかかりつけの歯科医院であればなおさら、これまでの経緯も含めて通い慣れた歯科医院で総合的な治療を行いやすい点はメリットです。
一方、一般歯科で行う矯正治療が、矯正治療の専門的なトレーニングを受けていない歯科医師による限定的なものであったり、或いは非常勤の矯正専門の歯科医師が月に数回矯正治療をしにくるパターンもあります。
前者については、最終的な永久歯列の歯並びや噛み合わせについてどのような方法で、どの様なゴール設定を考えているか、ということを話し合うと良いでしょう。また非常勤の矯正医による矯正治療の場合は受診できるタイミングが限定されやすいので、長期間の通院に無理がないかを治療開始まえに検討することが大切です。
矯正専門の歯科医院で矯正治療を受けるメリット
矯正治療については、必要十分以上の知識と技術を持って矯正治療を行っていますので、患者さんのニーズを考慮しながら専門性の高い矯正治療を行うことができるのが「矯正歯科」のメリットです。
そもそも矯正医が常駐している歯科医院なので、通院の時間についても比較的選択肢が多いものと考えられます。
一方、矯正治療のみを専門とする歯科医院も多々あり、その場合には抜歯や虫歯治療などには他の歯科医院の受診が必要となります。
最近よく見かける「歯科矯正歯科」とは?
最近「〜歯科矯正歯科」という名称の歯科医院が増えてきた様に思います。
本来歯科医師であれば「矯正」の標榜も許可されていますので、矯正専門か矯正専門に準じる知識技術の有無に関わらず「矯正」の標榜は可能です。
近年は矯正治療専門のトレーニングを受けていなくても、アライナー矯正によりある程度の矯正治療を行うことが容易になっており、そのような背景も含め「歯科矯正歯科」という名称の歯科医院が増えてきたように感じます。
矯正歯科選びを行う際に、アライナー矯正(マウスピース矯正)以外の方法でも矯正治療が可能かどうか、最終的にどの様なゴールを目指して矯正治療をすると良いか、ということなども話し合い確認すると良いでしょう。
要点
文章にすると色々な要因が出てきますが、最終的には患者さん自身のの感覚として信頼感が醸成できそうかどうか、長期間の矯正治療を無理なく通院することができ、コミュニケーションがとりやすいかどうか、ということに尽きると思います。
矯正治療は、治療費も高額で長期にわたるので矯正歯科選びには慎重になりますが、あまり多くの矯正歯科を初診で比較してドクターショッピングに陥るのは得策ではありません。
多くの初診を重ねるよりも、相性の良い信頼できる矯正歯科を見つけたと思ったら、検査診断へと進めていくなかで、担当医としっかりとコミュニケーションをとっていくと良いでしょう。
治療の知識と技術
・日本矯正歯科学会認定医などは一定の治療レベルを示す資格を持つ医師がいるかどうかの目安にはなるが、必須の要件とは限らない
・過去の症例を見せてもらうことで、矯正医の経験や使用する装置の種類などの参考になる場合がある
設備と診断
・セファロ分析を用いた総合的な治療方針が提示されるか
費用の明確さ
・自費診療のため、費用が明確に提示されているかを確認
通いやすさ
・長期の治療において、通院を継続しやすい時間帯や体制で診療を行っているか
・希望する体制(院長の診察、担当医制…など)での診療を行っているか
コミュニケーション
・自分が信頼できると感じられるかどうか
・治療計画や費用について、わかりやすく説明されるか
矯正装置の種類と選択
・自分が希望する矯正装置あるいは自分の治療に適切な矯正装置や治療方針が選択可能か
・アライナー矯正に特化した医院では、ブラケット矯正に対応していないこともあり注意が必要
・顎変形症の外科矯正など、特殊な治療が必要な場合にも対応可能かどうか
・子供の矯正治療にはさまざまな考え方があり、使用する装置も多岐にわたるので選択にあたり十分な理解を
最終的な選択の基準
・治療内容や費用の明確さ、希望する体制かどうか、通院のしやすさなどを考慮した上で、自分にとって最も信頼できる矯正歯科を選ぶ
・コミュニケーションが円滑に行えるかどうかも重要な要素
一般歯科 vs 矯正専門歯科
一般歯科での矯正治療の特徴
・総合的な治療が可能
・虫歯治療、歯周病治療、補綴治療などと並行して矯正治療が受けられる
・かかりつけの歯科医院であれば、過去の治療履歴も含めた総合的なケアが可能
・利便性
・通い慣れた医院で治療を継続できるため、安心感がある
・治療形態の注意点
・専門的なトレーニングを受けていない歯科医が行う場合、治療内容が限定的になる可能性あり
・非常勤の矯正専門医が対応するケースでは、通院スケジュールが制限される可能性がある
矯正専門歯科で矯正治療を受けるメリット
・高い専門性
・矯正治療に特化した知識と技術を持つ医師が対応
・専門的な矯正治療法(アライナー矯正、ブラケット矯正、外科矯正など)を幅広く提供
・利便性
・常駐の矯正医がいるため、通院スケジュールの柔軟性が高い
・専門外の治療
・矯正専門医院では、虫歯治療や抜歯などは他の一般歯科での治療が必要になる場合がある