矯正治療をされる患者さんに最初に受診いただくカウンセリング(初診相談)ではどのようなことを話すのでしょうか。
患者さんの状況によって答えの異なるものもあれば、矯正歯科の方針により対応が異なる部分も多々あり得ます。長期に及ぶ矯正治療を円滑に進められるように初診の段階からしっかりとコミュニケーションしていきましょう。
・矯正治療についての希望や質問を伺います
・現在の不正咬合の状況や、将来的な問題点なども説明します
・矯正治療が必要かどうか、矯正治療での治療が可能かどうかなど説明します
・矯正治療が必要な場合には、矯正治療の時期、期間、費用、矯正装置、抜歯や手術の必要性がありそうかなどについても説明します
矯正治療で初診相談/カウンセリングが大切な理由
矯正治療は、他の歯科治療と異なる大きな特徴があります。
現在では、ネットなどで事前の情報収集ができるのであらかじめ詳しい患者さんが増えたとはいえ、矯正治療を行う矯正歯科の立場から、きちんと矯正治療の特徴を知っていただくことが大切になります。
まずは矯正治療の基本的な事情として、まず下記などについて、大まかにでも理解いただく必要があります。
矯正治療のほとんどが健康保険が適用できない自費診療となること
矯正治療は、厚生労働大臣の定める選定性疾患、歯列矯正に顎骨の手術の併用が必要な顎変形症、6歯以上の永久歯の先天性欠損など法令で定められている症例を除き、健康保険が適用できません。また上記に認められている治療でも治療方法や使用できる矯正装置など細かく規定されており、例えば、1厚生労働省の認める特定保険医療材料を用いるなど保険適用できない内容が加わると、その矯正治療全体が健康保険適用ができないことになっています。
これはすなわち、たいていの矯正治療は健康保険適用外の自費診療であり、また特定保険医療材料に認められていな審美的な矯正装置であるアライナー矯正なども自費診療となることを示しています。
結果的に、3割負担で治療を受けられる健康保険治療に対して10割負担となる矯正治療では高額な医療費が必要となることを矯正治療を検討する際にあらかじめ知っておいていただく必要があります。伴って、可能な支払方法などについてもこの段階で説明を受けておくことがお勧めです。
矯正治療は長期の治療期間が必要
矯正治療は、年単位に長期の治療期間を要します。
すでに永久歯列期の歯列矯正でも2〜3年を要するのは普通で、何症例などではさらに長期化することもあり得ます。
本来の矯正治療の目標は、永久歯列の歯列咬合を健康なものに完成させることなので、小児期から矯正治療する場合などはとくに、治療期間が小学生〜高校生。大学生ごろまでに及ぶことも珍しくありません。
着脱式や固定式の矯正装置を使用する(使用し続ける)必要があること
固定式矯正装置の代表例として、歯列矯正で一般的な「マルチブラケット装置」(ワイヤーとブラケットの矯正装置)、また着脱式ではアライナー矯正のマウスピースや拡大床など様々な矯正装置を使用します。
これらの矯正装置の選択は、まず矯正医が不正咬合の状態に合わせて適切な矯正装置を判断して、その中で複数の選択肢がある場合は、そのなかで患者さんの希望に沿っていくこととなります。
良好な治療経過とするには着脱式の矯正装置であっても毎日できるだけ長い時間使用することが必要です。
また矯正装置の選択は根本的に不正咬合の状況にあわせて選択するものなので、必ずしも患者さんの希望通りの矯正装置選択とはならない場合もあります。
不正咬合の状況によっては、抜歯や、時には顎骨の手術などの必要が生じる場合も
検査診断の結果や、治療経過などによりますが、矯正治療では不正咬合の状態によっては永久歯の抜歯を必要としたり、ときには顎骨の手術併用などを必要とする場合もあります。
最終的には検査診断までステップを進めないと確定できない問題となるので、初診の段階ではあくまで「可能性」の話となりますが、そういった可能性がある場合には可能性のお話としてできるだけ早い段階から説明をするようにしています。
患者さん側にも、矯正治療とはそういった可能性のあるものと当初より理解をしておいていただきたいポイントとなります。
歯が動き時の痛みなどは仕方がないこと
矯正治療で歯を動かすときには痛みがあります。
歯の動くときの体の反応により痛みの元となる物質も分泌されるため、矯正治療で歯を動かす場合の体の反応としては正常で、仕方のないものでもありますので心配することはありません。
また痛みの程度や日数、タイミングなどは治療の内容や患者さん自身の個人差などにより異なります。
どの程度ストレスに感じるかは個人差が大きい問題ですが、矯正治療の治療期間中は矯正装置の装着、着脱、痛みなどを伴う点もあらかじめ理解をいただきたいポイントです。
問診票の記入をしっかりと
問診票の記入項目は、矯正治療上参考にするべき内容だけでなく、できるだけ患者さんのニーズや質問を知るために構成されているのでしっかりと記入しましょう。
住所・氏名・年齢
当たり前の基本事項ですが、ご住所などはクリニックへの通院のしやすさなどの参考となります。
矯正治療は長期にわたるため、特に遠方のご住所の場合などには事情をお伺いする場合があります。
ご職業・ご勤務先・学校名等
勤務地・学校の所在地や、勤務の業態、公休日の状況、場合によっては転勤や転居の可能性など、長期的な通院継続のしやすさなどの参考となります。
また職業上などの理由から、矯正装置に制限のある場合もあり、患者さんに適切な矯正治療を検討する上でも大切な情報となります。
矯正治療で治したいと思っていること
今回の矯正治療で治したい、良くしたいと思っているポイントを具体的に、できるだけ全部書いてください。
矯正治療で現実的に解決できる問題かどうかや、解決するためにはどのようにしたら良いかなどを説明する参考となります。
矯正装置や抜歯、手術等に関する希望
現時点で、矯正治療についてどのような希望かを書いてください。
矯正治療の方針や、ご希望に対する現実性などを検討する上でいちばん大切な項目の一つです。
病歴や怪我の既往、通院歴、投薬歴、習癖(癖)・習慣など
意外な病気やお薬、癖などが歯科治療と関連していたり影響する場合があります。
また口元の打撲などの既往は歯の移動のリスクと関連する場合などもあります。
どのような既往が、矯正治療とどのように関係ありそうなのかなどは矯正医の立場から検討したり判断をしますので、全身的な項目だから歯科とは無関係だろうというような思い込みで省略せず、できるだけ全部を記入しましょう。
家族に矯正治療の経験があるかどうか
ご家族に矯正治療の経験がある場合(ご家族が矯正治療をされた当時とは治療内容や治療上の事情が異なる場合もありますが)矯正治療に伴う事情やストレスなどについても相談相手が身近に存在するので円滑に治療を進めやすくなります。
おさえておくべき矯正治療のデメリットの部分
・治療期間が長く、定期的な通院が必要
・矯正治療費が高額な場合が多いこと
・抜歯等が必要になる場合もあること
・骨格的な要因が著しい不正咬合では歯の矯正だけではきちんと治らない場合も
・要因は特定できないが、歯根吸収、歯髄壊死による歯の変色などのリスクもゼロではないこと
・不適切に過度な歯の移動などにより歯肉退縮などの影響が出ることもある
・矯正治療の終了後にはリテーナーをきちんと使用しないと、デコボコの再発などのリスクが高まる
などといった、矯正治療のデメリットやリスクにあたる部分についても、初診のカウンセリングや診断の説明などの際にきちんと説明してもらうようにしましょう。
また、歯科治療として適切な治療方針・矯正治療装置の選択といったことが、必ずしも当初の患者さんの希望と一致するとは限りません。
適切な矯正治療のためにはどのような選択が必要なのか、納得できるように話し合いましょう。
心配だったら矯正担当医に尋ねておくべきポイント
初診の段階では正確な回答が難しい質問もありますが、気になることは遠慮せず尋ねましょう。
・自分の矯正治療にはどのような矯正装置が考えられるのか
・矯正治療での痛みはどのような感じか
・矯正治療の期間と通院頻度
・矯正治療中はどのようなことに気をつけたら良いか
・抜歯する必要がありそうか
・矯正治療にかかる費用
・矯正治療費用の分割払いは可能かどうか
・治療の途中で結婚式や成人式などがある場合はどのようにしたら良いか
・出産、留学などの場合に矯正治療はどうしたら良いか
・治療の途中で遠方に転居となる場合にはどうしたら良いか
などといった点について尋ねられることが多いです。
初診や検査の段階で矯正担当医に伝えておくべきポイント
・自分の歯並びや噛み合わせで治したいポイントや、どのように治したいかなど(主訴)
・希望する矯正装置の種類など
・矯正治療を開始する時期、タイミング、また矯正治療を終了しなければならない期限など
・自分自身はどの程度矯正治療をしたいと思っているか、また家族は賛成しているか
・仕事や学校などの予定を考慮した上で、通院可能な曜日や時間帯
・どうしても抜歯を避けたい、手術を避けたい、などの治療上の希望
・転居、留学、就職など通院に影響がありそうな予定
・ご自身の病歴、怪我の既往、投薬、通院歴等
歯科治療として、また治療方法や矯正装置の限界などを考慮すると必ずしも患者さんの希望に沿った治療目標になるとは限りません。しかし矯正治療を開始する段階で、患者さん自身がどの部分をどのように治したいと考えているか、といった主訴の部分は最も重要な情報のひとつです。歯科治療としての事情もすり合わせながら現実的に実現可能な矯正治療のしかたを確立していくためにも、患者さんの希望や事情をしっかりと伝えてもらう必要があります。
カウンセリングでコミュニケーションすることの重要性
患者さんの希望や心配事を担当医と共有し信頼関係を確立する
初診の相談・カウンセリングでは患者さんと矯正歯科/担当医との信頼関係を確立し、また矯正治療上の事情を患者さんにもしっかりと理解してもらうことが目標です。
矯正治療は患者さんごとに治療目標や治療方法の設定が異なるだけでなく、治療に長期を要するので、治療の途中で齟齬が生じたり患者さんのストレスが昂じるリスクをできるだけ小さくするためには、患者さんの希望や事情、心配事をしっかりとお話しいただいた上で、矯正治療の実際の事情を説明することが大切です。
患者さんにあった矯正治療の計画とゴールの提示
矯正治療には複数の矯正装置がありますが、それぞれ特徴や限界が異なります。
また不正咬合の状態も患者さんによって異なるだけでなく、抜歯/非抜歯、外科/非外科、ワイヤーとブラケットの装置/アライナー矯正装置、などといった治療方法の違いによっても目指せる治療のゴールが異なる場合も出てきます。
初診相談/カウンセリングでできる説明内容は比較的一般的な内容に限られますが、これから開始する矯正治療の全体像を把握しやすくすることで治療全体を通じの土台を築くものとなります。
個別の患者さんの矯正治療についての詳細は査結果を踏まえた診断の段階でということにはなりますが、矯正治療期間中は患者さんにとっての苦労やストレスが皆無ではありませんし、歯根吸収など治療上のリスクもあるものなので、疑問や事情があれば、初診の段階から具体的にしっかりとコミュニケーションを取るようにしましょう。
初診相談 、カウンセリングまとめ
初診相談やカウンセリングは矯正治療を開始する際に非常に重要です。この段階で患者さんと矯正医との間でしっかりとコミュニケーションを取ることが、長期的な治療の円滑な進行に繋がります。以下のポイントがカウンセリングで話すべき主な内容です。
1. 矯正治療の特徴と重要性
- 自費診療: 矯正治療は多くの場合、保険適用外の自費診療です。治療費用や支払い方法についての説明を事前に受けておくことが重要です。また健康保険が適用できる場合には、その条件についてもしっかりと説明する必要があります。
- 治療期間の長さ: 矯正治療は通常数年単位で長期間にわたります。小児期から矯正治療を開始する場合と、永久歯列の成人が歯列矯正を行う場合などで期間や進行が異なります。
- 矯正装置の種類: 矯正装置は固定式や着脱式のものがあり、治療計画に応じて選ばれます。患者の希望や不正咬合の状況によって異なることもあります。
2. 治療に伴うリスクとデメリット
- 抜歯や手術の可能性: 不正咬合の程度と治療計画によっては、抜歯や顎骨の手術が必要になる場合があります。
- 痛みや不快感: 歯を動かす過程で痛みが生じることは避けられません。痛みの程度は個人差がありますが、治療中に痛みを感じることがあります。
- 治療のリスク: 歯根吸収や歯の変色、歯肉退縮などのリスクもゼロではないことを説明する必要があります。
3. 患者さんの状況や希望の確認
- 主訴の確認: どの部分をどのように治したいか、具体的な希望を詳しく聞き、矯正治療の目的や方法について理解を深めてもらいます。
- 治療内容についての確認: 治療方針に影響の大きい希望(例えば、抜歯や手術等についての希望)についても話し合います。
- 生活環境の確認: 学校や仕事の予定、転居予定など、通院に大きく影響を及ぼす事項についても確認します。
4. 治療計画とゴールの設定
- 治療のゴール: どのような結果を目指すのか、治療を通じて達成したい/現実的に達成可能な目標を明確にします。
- 治療方法の選択肢: さまざまな矯正装置(ワイヤー、アライナーなど)や治療方法(抜歯の有無、手術の有無)など総合的に患者さんに合った治療計画を提案します。
5. 患者さんからの質問と疑問の解消
- 矯正装置や治療の痛み: 治療上避けることのできないストレスやリスクについての説明も大切です。
- 費用について: 具体的な治療の詳細や費用、分割払いの可能性などについて説明します。
- 生活の変化への配慮: 結婚式や成人式、転居など、治療期間中に予定がある場合、その対応についても確認します。
6. 信頼関係の構築
- 患者さんの希望と事情を反映: 初診で患者さんと矯正医との信頼関係を築き、患者さんの希望や心配事をしっかりと聞き、治療の現実的な進行方法を説明することが大切です。
初診相談は、患者さんの希望と現実的な治療内容などすり合わせ、円滑に矯正治療を進行し、治療の途中で生じうるストレスなどを減らすためにも重要なステップです。