矯正治療の初診相談や電話問い合わせなどでは「自分の場合の矯正治療費用が聞きたかったので来ました」という話をよくききます。結果的に「ホームページに記載してある通りですよ」とお答えすることも多々あります。
単純な料金体系の問い合わせであれば、初診を受信するまでもない事務的な質問となることも多いため、前回と今回の2回に分けて【矯正歯科のホームページから矯正治療費用をどのように読み取るか】【実際に受診しないとわからないことと、ホームページをみればわかることは何か】ということを書いています。
前回は、矯正治療で発生する費用を理解しやすくするために「矯正治療の料金体系」の説明をしました。今回は「受診して見ないとわからないこと」、「場合によっては検査診断までしてみないとわからないこと」を中心に書いていきます。
部分矯正が希望の場合
部分矯正が希望の場合は、まず、部分矯正という治療のしかたが適切かどうか、可能な状態か、ということの判断を矯正歯科で診てもらう必要があります。矯正治療目標の設定のしかたにも依るところがあり、矯正医や矯正歯科によって意見がわかれる可能性もあります。
部分矯正を希望する理由の大半は矯正治療費の節約、次いで治療期間の短縮、というところだと思いますが、治療方針として実際に部分矯正が適切だとして、どのくらいの範囲に矯正装置を装着するか、する必要があるかということによって治療費用は異なってくるのが普通です。
旧来からの本格的な矯正歯科では、矯正治療は根本的に上下左右全体をおこなうものという考えもあり、部分矯正を希望する場合は、予約の段階からそのように伝えた方が良い場合がありますし、実際に受診をしてみて自分自身の希望とは異なり、部分矯正とした場合に想定される弊害や、全体的な矯正治療の必要性を説明される可能性があります。
部分矯正のような矯正治療については、矯正医により捉え方、考え方が異なるところもあります。したがって、ある程度通院するつもりの矯正歯科の初診相談を受診したほうが具体的・現実的な話が可能です。
いずれにしても、それぞれの患者さんの不正咬合の状況により大きく異なることになりますので(全体的な
矯正治療を勧められる可能性も想定の上で)治療を前提に初診相談を受診され(場合によっては検査診断まで行ってから判断する必要もありますが)矯正装置の装着が必要な歯数、治療規模や治療期間の見込みと料金について説明をうけましょう。
小学生ぐらいの子供の矯正の場合
小学生頃は、乳歯が生えていたり、まだ永久歯が全部生えそろっていない時期です。
歯科矯正治療では、最終的に「永久歯での歯並びとかみ合わせを整えること」が目標になるので、成長発育段階に合わせた矯正治療の方針を考えることになります。
教科書的には、小学生頃までの矯正治療と、永久歯が生えそろった頃以降(いわゆる大人の場合の歯列矯正と同内容)の2段階に治療をわけて考えるのが普通です。矯正治療費治療段階に合わせ大まかに2段階にわけて考えるものとなりますが、実際にどのような料金体系となっているかは矯正歯科ごとに異なります。
子供の矯正治療では、歯の生え変わりや治療の進行に伴い矯正装置を変更したりします。したがって治療の進行に伴う矯正装置の追加製作の際に費用がかかるかどうかなどはひとつの問い合わせのポイントです。
また、子供の頃から矯正治療を開始した場合と、永久歯が生えそろってからの歯列矯正のみで矯正治療を行う場合とでどの程度の費用の差額になるかもポイントです。旧来より、子供時代から矯正治療を開始した場合でも、それほど総額がかわらないように配慮された料金体系の矯正歯科を多々見かける一方、使用する矯正装置ごとに料金が発生する方式も従前からの一般的な料金体系のひとつです。矯正装置を追加するごとに矯正装置代が発生するタイプの料金体系であれば、実際の治療のながれをある程度想定したて判断してもらう必要があるので、初診相談を受診する必要が生じます。
料金体系に対する多くの質問や疑問は治療内容に関わらない事務的な内容ですので、矯正歯科のホームページで十分に情報収集できる場合が多く、そうでなくても電話問い合わせで十分把握できる内容となります。
しかしこどもの矯正治療は、成長発育段階と不正咬合の状況によって治療のしかたが多岐にわたり、治療の開始時期なども矯正医により考え方の分かれるところもあります。したがって料金ということも大切なのですが、いつからどのように矯正治療をすすめていくのが良いかという話が一番大切なので、実際に通院する予定の矯正歯科で初診相談をうけなければ意味がありません。概要は事前に情報収拾をおこなうとして、具体的には通院予定(現実的に通院が可能)の矯正歯科に初診相談することが大切です。
子供の矯正治療の経過は、矯正治療の成果ということだけではなく「子供自身の成長発育」のしかたなどにとくに左右されます。長い年月の中で様子を見ながら、工夫をしながら少しずつ積み重ねていくものになります。長期的には正確な予測ができるものではありませんが、全体的な治療の流れや狙いをよく理解され、どの段階でどのような費用がかかるのか、ということを押さえた上で矯正治療を開始することが大切です。
永久歯列の歯列矯正
矯正治療の料金体系として主に、従来から一般的な「来院ごとに処置料(処置調整料)が発生する料金体系」と、治療の当初に処置料など含めた治療費の総額をまとめて契約する「トータルフィー」があります。
一般的な治療期間での比較では、トータルフィーの場合も処置料が発生する料金体系でも治療費の総額にはそれほど大差が生じないように思います。
矯正治療はそれなりに長期の治療期間を要するものです。十分にきちんと治そうとすれば治療が長期化する場合もありえるし、逆に極端に治療期間を短縮しようとして、本来行うべき矯正治療の内容の方を切り詰めて減らすようなことは避けなければなりません。
それぞれの患者さんに適切な治療の計画と、結果的に必要な通院回数・治療期間をきちんと考慮したうえでの治療費総額、ということが大切になります。
矯正治療の計画がさだまらなけれ料金も確定できるものではないので、初診の段階では確定できず検査診断をおこなってから確定するのが本来の順序です。
トータルフィーでの歯列矯正
従来から矯正治療では、患者さんの来院ごとに「処置調整料(処置料)」を請求するのが一般的でしたが、最近では処置調整料などをオールインクルードした「トータルフィー」という料金体系の矯正歯科もあります。処置調整料が発生する場合と比較して、来院回数に関わらず事前に治療費用の総額が確定するのが利点ですので、基本的にクリニックのウエブサイトなどで得られる情報から治療費総額の見当がつけやすいということにもなります。
ただし、矯正治療の難易度別にトータルフィーをわけている矯正歯科もあり、そのような場合には初診相談あるいは検査診断までおこなわないと治療費用が決定しない場合もあります。
また例外的な追加費用、たとえば抜歯や歯科矯正用アンカースクリューなど、治療内容に応じて追加される矯正装置の費用がどこまで含まれるか、追加でかかるかどうか、などはあらかじめ尋ねるとよいでしょう。
処置料(処置調整料)が設定されている場合の歯列矯正
処置料(処置調整料)が設定されている場合、矯正治療の大きな費用に加え、【通院回数×処置料】がかかることになります。
難症例ほど治療期間も長期化しやすいので、矯正治療の難易度を反映した料金体系とも考えられ、矯正歯科サイドとしては本来合理的な考え方なのですが、治療期間というものが事前に確定できるものではないために、患者さんにはある程度「見込み」で総額の見当をつけてもらう必要があります。
抜歯を伴う歯列矯正の場合で2年半から3年半程度の治療期間が一般的だとすると、通院回数を30回から40回程度を概算で見込んでおけば良いことになります。全く抜歯を要しない難度の低い症例での治療期間は一般的に1~2年程度、12~24回程度を見込んでおけば良いことになりますが、この辺りは検査診断を行なった結果立案される矯正治療の計画ということと、その後の実際の進行により異なってきます。
人の体の治療ですから、治療期間は長引きやすいと考えておいた方が良いのは矯正治療に限りません。治療費用の見込みとしても多少長めに想定しておくほうが現実的です。
抜歯や歯科矯正用アンカースクリューなど治療上の必要性に応じて追加される矯正装置については、別途で費用がかかるものもあるので、計画や見込みも含め、あらかじめ尋ねておくと良いでしょう。
外科矯正(健康保険適用)の場合
外科矯正の方針が確定すると健康保険適用となる(顎口腔機能診断施設に限る)ため、事前に治療費用の総額を算出することはできるものではありません。またそもそも外科矯正の方針となるかどうかは正式に検査と診断をおこなってみないと判断ができるものではないため、初診相談の段階で判別できるものではく、また、患者さんが外科矯正を希望したからといってそのような治療方針になるかどうかはわからない、という点も重要です。
この検査〜診断の段階では外科矯正に確定できていない段階なので、いずれにしてもまずは自費でおこなう必要があります。
治療方針については、矯正医や矯正歯科により多少異なるところがありますので、通院するつもりの矯正歯科で初診から検査〜診断をしなければ意味がありません。また検査診断を受診するつもりのない矯正歯科に初診相談をしてもあまり意味がないということにもなります。
健康保険適用での外科矯正について多少まとめておきます。
・手術の併用が確定しないと健康保険適用にならないので、成長期の子供の矯正治療が健康保険適用となることはない(厚生労働大臣の指定する各種先天性疾患の歯科矯正治療を除く)
・矯正装置は表側のブラケット。アライナーなど審美的な矯正装置は不可
・外科矯正の方針となるかどうかは検査〜診断の結果次第。初診相談の段階では決まらない。
・外科矯正の方針となるかどうかは、不正咬合の現状に対して適切な治療方針を診断した結果なので、患者さんが希望したからといって外科矯正の方針になるものではない。不正咬合の状況によるもの
・当初、検査〜診断の段階は「外科矯正の方針になるかが未定」のため、自費でおこなう必要がある
・健康保険適用で外科矯正をおこなうには「顎口腔機能診断施設」の指定をうけた医療施設で矯正治療を行う必要がある