・矯正治療でおこなわれる抜歯は、でこぼこの解消のみが目的ではありません。上下歯列の位置関係をあわせるため、前歯を後方に下げて口元を下げるため、など様々な理由で抜歯をします。
・抜歯、非抜歯いずれの方針でも、それぞれの患者さんに適切な方針であることが重要です。
・一般的な矯正治療での抜歯部位は第一小臼歯が第一選択とされることが大多数ですが、歯並びやかみ合わせの状態、虫歯や歯周病の状態など、それぞれの患者さんにとってもっとも良い結果となるように抜歯する歯を検討します。
どのような不正咬合で抜歯が検討されるか
歯並びのでこぼこ
乳歯から永久歯に歯が生えかわる時に、スペースが足りないと歯並びがデコボコになります。
スペース不足を解消するための方法は主に3つ、
・歯列の前方や側方への拡大
・大臼歯(奥歯)の後方への移動
・歯の側面を削り、歯の幅を小さくする
・抜歯
これらのうち、どの方法でも良いということではなく、患者さんの不正咬合の状況に適切な方法を取る必要があります。できれば抜歯などの不可逆的な方法をとらずにすむと良いと感情的には思いますが、拡大などの方法にも限界があり、限度をこえれば弊害の方が大きくなるため、どのような方法でスペースの問題を解消するか、客観的に適切な判断が重要です。
上下の噛み合わせの位置関係をあわせる
歯並びのでこぼこ以外の理由でも、抜歯が必要になります。
・前歯の真ん中がおおきくずれている
・出っ歯のため上顎前歯を内側(後方)に移動する必要がある
・受け口のため下顎前歯をより内側に移動する必要がある
・上下または左右の歯数をあわせ、バランスよく噛める位置関係にする...
歯の位置を大きく変化させる場合も、やはりスペースが必要です。
でこぼこの場合と同様、歯を移動させるためのスペースを作るために、歯の移動方向、移動量や、歯や歯周の状態などよく検討した上で、抜歯をしないと不十分、またはあまりに能率が悪すぎるという場合に抜歯を考えます。
なんでも抜歯すればいいわけではない!(当たり前)
矯正治療をする上で大切なことは、それぞれの患者さんに適切な治療方針で矯正治療をすることです。
今回の抜歯の話に関していえば、抜歯が必要な患者さんには抜歯を適用し、抜歯が不必要な患者さんには抜歯をせずに矯正治療をする、という当たり前のことが大切なのです。
その「当たり前」どおりに矯正治療をするためには、矯正治療開始前の検査結果をきちんと分析して治療目標をさだめ、そのためには抜歯が必要かどうか、という考え方で判断をします。そのうえで、その治療目標が達成可能な矯正装置を選択して治療をおこなう、ということが当たり前に重要です。
上記の話のとおり、抜歯の必要のない患者さんを抜歯とするなど論外ですが、同様に、本来抜歯を要する不正咬合を非抜歯で治療しても良い結果にはなりません。ですから、患者さんが非抜歯を希望されていたとしても、非抜歯では矯正治療がうまくいかない、と判断されるときには、矯正医は抜歯の方針をきちんと患者さんにお話するべきでしょう。
また、現時点(2019年Q1)ではまだアライナー矯正単独では、抜歯を要する歯列矯正はまだまだ困難な状況のなかえ、アライナー矯正の方針とするために、本来抜歯を要する不正咬合を無理に非抜歯にするようなことがあってもいけません。
患者さんの希望に沿った矯正治療ということと同時に、歯科治療として適切な内容のきょうせいちりょうでなければなりませんので、検査結果に基づいて客観的に治療方針を検討し、そのうえで患者さんと矯正医同士でしっかり相談する必要があります。最終的には、患者さんと矯正医の意見がきちんと一致した上で矯正治療を開始としなければなりません。
矯正治療で抜歯する歯はどれ?
第一小臼歯
矯正治療でもっとも抜歯されることが多いのが第一小臼歯です。
抜歯する歯を検討するにあたって、そもそも前歯は「噛み切る」、奥歯は「噛み潰す・咀嚼する」という機能に働きます。また上顎前歯などは見た目への影響がおおきかったり、犬歯は噛み合わせ城非常に重要な丈夫な歯でできるだけ抜歯したくない、などの事情があります。
また矯正治療では、前歯のでこぼこを解消したり、また前歯を後方に下げる治療をすることが多々ありますので、総合的に検討した結果、
・移動対象の前歯からできるだけ近く、
・見た目への影響が少なく、
・歯の形や位置から考えて噛み合わせへの影響も少ない
と考えられることから、通常、第一小臼歯が抜歯の第一選択となります。
第二小臼歯
抜歯したスペースを利用して、前歯を下げるというよりむしろ、大臼歯を前方に移動したい場合などに第二小臼歯を抜歯を検討します。
虫歯の歯、歯周病の著しい歯
本来矯正治療に都合の良い歯のかわりに、虫歯や歯周病の状態が悪い歯や、過去の大規模な虫歯の治療をしている歯(根管治療をしていたり、大きな削ってクラウンになっている歯など)を抜歯とする場合があります。
矯正治療には不利な場所の抜歯になるので、治療期間は長期化しますし、状況によっては治療の難易度も難しくなります。しかしそれ以上に、痛んでいる歯のかわりに健康な歯を残せることがメリットと考えられる場合にはそのように選択します。
その他
そのほかにも、歯の本数や形など考慮の上、様々な場所の歯が抜歯対象となる場合があります。いずれも患者さんごとに最適な結果となるよう検査結果から検討したうえで決定します。
もっとも典型的な抜歯が第一小臼歯で、実際には患者様の状況の合わせてカスタマイズして決定する、と考えていただくと良いと思います。
親知らず
親知らずは、一般的には、噛み合わせ上あまり活用できず、むしろ何かの弊害となることが多いため抜歯とされることが多い歯です。
矯正治療でも、歯列の最後方の歯なのでこれを抜歯しても歯を並べるスペースが増えるわけではないので、矯正治療のためというよりは、虫歯をはじめとする歯科的なリスクが高ければ必要に応じて抜歯を検討する歯になります。
ただし稀に、矯正治療で親知らずを活用できる場合がありますので、これから矯正治療をしよう、とお考えの場合にはいきなり抜歯してしまわず、念のため、矯正医の判断をあおいでからの抜歯としましょう。