ひとくちに矯正治療といってもさまざまな形があります。
クリニックにより治療の体制や、ときに内容なども異なります。自費診療の矯正治療では費用もクリニックにより違いますので、患者さんにとっては何を比較して検討したら良いのか、とてもわかりにくいものになっています。
年単位以上に長期間通う矯正治療、比較検討にはどのようなポイントがあるでしょうか。
長期の通院がしやすい生活圏内での比較検討が基本
矯正治療は、最頻で月に1回程度の通院間隔ですが、治療期間が数年単位の長期に及びます。その間に応急的な臨時の診察などもありえますので、患者さんにとって長期間継続しやすいロケーションのクリニックでの比較検討が基本となります。
矯正治療では従来から、歯科大学卒業後に専門で研修する体制が整っています。そのため矯正治療を専門とする矯正医であれば、都市部や地方といった比較で技術力に差が出るようなものではありません。安心して、まずはご自身の生活圏の中で矯正歯科を比較検討されると良いでしょう。
クリニックによる矯正治療の体制の違い
- 矯正専門の歯科医師が在籍する矯正専門のクリニック
- 一般歯科医院内で、月一回など非常勤の矯正専門の歯科医師が診察するクリニック
- 一般歯科医、小児歯科医などが矯正治療も診察をするクリニック
矯正治療をおこなうクリニックの体制は、主に上記の3つがあります。
矯正治療は、歯科治療の中でも専門的な治療です。矯正治療のなかでも、抜歯の併用を要するケース、外科矯正、舌側矯正などはとくに矯正医が得意とするところといって良いでしょう。また、子供の矯正治療を始める際には、最終的な永久歯列までののながれを十分に想定した治療であることが大切です。
一方虫歯の治療などは、矯正専門のクリニックでは行わないことも多いので、矯正専門のクリニックでは、一般歯科・小児歯科などとの十分な連携も大切になります。(虫歯などにならないようにきちんと予防していくことが本質的に重要なのですが)包括な診察が必要な場合には一般歯科、小児歯科、歯周病医などを軸にした矯正治療の利便が優れる場合もあります。
専門性と矯正治療の方針
診断と専門性の関連
不正咬合の現状をに基づいて適切な治療計画をたてることを「診断」といいます。
矯正治療の治療目標を定めて、抜歯の必要性やときには外科矯正の必要性などを判断するためにセファロ分析という検査が必要です。
顔面骨格のバランスや歯並びと口元の関係性などの客観的な判断にセファログラム・セファロ分析は根本的に必須な検査項目なので、矯正治療計画立案の際にセファロ分析が行われているかどうかもクリニック選択の一つの目安となります。
抜歯症例
歯列矯正をおこなう際の単純な技術的な難易度の比較では、一般的な非抜歯の症例よりも、抜歯を要する症例の歯列矯正のほうが難易度は高いといえます。最近では、歯科矯正用アンカースクリューなどの併用により、本来抜歯を併用する必要性のあるケースをどうにか非抜歯での治療とする場合など、非抜歯の治療計画でも抜歯症例と同様の難易度と考えるべき治療もあります。
本質的に、患者さんの不正咬合の状況に合わせて適切な治療方法を選択するものですが、矯正の専門の研修を受けていない場合、本来抜歯すべき症例に対しても抜歯の対応がされないケースも出てきますので、ご自身に本質的に必要な治療方針が選択されることが重要です。
舌側矯正(裏側)
一般的な表側のブラケット装置でおこなう歯列矯正とはまた別に、専門的に技術の習得を要するカテゴリの治療です。歯の裏側の矯正装置は、見えにくく処置がしにくいということだけではなく、歯の動き方が表側の矯正装置とは多少異なるために矯正治療の難度としても難しいため、矯正医にとっても舌側矯正独特の技術や考え方を習得する必要のある治療技術です。非抜歯症例に比べて抜歯症例の方が難度があがるのは舌側矯正もおなじです。
舌側矯正の技術論が以前より格段に確立され、舌側矯正をする矯正医も増加していますが、しかしながら矯正専門でも舌側矯正にはあまり対応しないクリニックも多いので、舌側矯正を検討する際には普段から舌側矯正に対応している矯正歯科に相談する必要があります。
顎変形症の外科矯正
顎変形症の外科矯正は、口腔外科などとの連携が必要で、セファロブラムを用いた治療のシミュレーションや、顎骨の手術直後特有の矯正処置など、経験に基づく判断力も必要とされる治療です。
健康保険の適用が可能ですが、そのためには「顎口腔機能診断施設」の都道府県知事指定を受ける必要があり、ある程度の経歴と体制を整えて申請する必要がありますので、いずれにしても大学病院勤務などの矯正専門の経歴をもつ矯正医が担当する治療内容となります。
非外科と外科矯正の方針の線引きには幅があるので、様々な理由から外科矯正とするべき不正咬合も非外科の方針とされることもあります。しかし本質的には外科矯正の方針とどちらが適切か、比較検討の上で選択されるべき問題なので、このような場合には、結果的に非外科になったとしても、外科矯正にも対応可能な矯正歯科を選択して検査診断を受診されるとよいかもしれません。
アライナー矯正
アライナー矯正は、ブラケット装置での歯磨きや見た目の問題がない点が利点です。一方、アライナー単独では、抜歯症例など、すべての不正咬合の治療に対応できる状況には至っていません。症例によって部分的にブラケット装置を併用したり、アライナー単独では十分な治療結果に至らない場合には一時的に歯列矯正に移行する必要が生じたりします。
歯科医院にとって、アライナー矯正は矯正の治療技術を訓練しなくても導入できる点もメリットのひとつです。しかしアライナー矯正が万能ではない現状では、本質的にまず、アライナー矯正が適切な状況かどうかからブラケット装置の補助的な併用が必要かどうかなどをあらかじめ判断する必要があります、
逆に、アライナー矯正で治療をするために本来抜歯を要する症例を無理に非抜歯で治療するようなことは避けるべきなので、現在の状況では、基本的な矯正治療の診断と治療技術もおさえているクリニックでアライナー矯正を検討されるのが理想的です。
子供の矯正
子供の矯正には様々なアプローチがあり、料金体系もクリニックによって様々です。
子供の矯正の比較検討にあたって最も重要なことは、歯の生え変わりや成長発育に伴う変化と最終的な永久歯列の状況まで想定して、子供の時期の治療内容を計画しているかどうか、です。
成長発育に伴う変化や治療の限界を考慮せずに子供時代の矯正治療をおこなうとむしろ弊害を生じるので、矯正医が子供の矯正治療をおこなうばあい、治療開始から最終的な永久歯列の完成までをおおきく2段階にわけて一連のながれで考えるのが一般的です。治療費用も全体のながれを考慮したものになっています。
不正咬合がとても軽微で子供の時期の多少の咬合誘導のみで良好な結果に至る例もありますが、いずれにしても、最終ゴールである永久歯列の状況まで見据えて診断をおこなっているかどうかが重要な見極めのポイントになります。
参考:HPに公開されている大学病院の矯正治療費用概算(2019年)
永久歯列期の歯列矯正(表側の矯正装置)
(税別) | 都内私立大学病院A | 都内私立大学病院B |
初診相談料 | 3,000円 | 4,000円 |
基本検査料 | 35,000円 | 30,000円 |
診断料 | 25,000円 | 30,000円 |
表側の矯正装置 | 800,000円 | 800,000円 |
毎回の処置料 | 3,500円~5,000円 | 3,000円 |
アライナー矯正(インビザライン)
(税別) | 都内私立大学病院A |
初診相談料 | 3,000円 |
基本検査料 | 35,000円 |
診断料 | 25,000円 |
インビザライン | 600,000円(ステージ数の少ない場合) 800,000円(通常のインビザライン単独) 1,000,000円(ブラケット装置を併用する場合) |
毎回の処置料 | 3,500円~5,000円 |
舌側矯正
(税別) | 都内私立大学病院A |
初診相談料 | 3,000円 |
基本検査料 | 35,000円 |
診断料 | 25,000円 |
舌側矯正 | 1,200,000円 |
毎回の処置料 | 5,000円 |
子供の矯正
(税別) | 都内私立大学病院A | 都内私立大学病院B |
初診相談料 | 3,000円 | 4,000円 |
基本検査料 | 35,000円 | 30,000円 |
診断料 | 25,000円 | 30,000円 |
乳歯・混合歯列期 | 350,000円 | 400,000円 |
引き続き永久歯列期の歯列矯正に移行 | 450,000円 | 400,000円 |
毎回の処置料 | 3,500円~5,000円 | 3,000円 |