一般的には子供の矯正治療は、上顎前歯が3〜4本永久歯に生え変わった頃から開始すれば適切に矯正治療が可能です。
しかし反対咬合(うけ口)の場合には、乳歯列期である4〜5歳ごろの幼少期から矯正治療に着手することをお勧めします。
乳歯列期にすでに反対咬合や切端咬合になっているのは、将来の不正咬合の予兆の場合も
乳歯列は、概ね2歳半ごろに完成します。
この時の上下の噛み合わせは、上顎が下顎に対して1〜2mm前方に被さっているのが正常です。
したがってこの時点で反対咬合または切端咬合ということ自体が、何かしら下顎前頭の傾向を呈する原因や要因があるということになります。
成長期の反対咬合や切端咬合自体が、今後の不正咬合を強める要因になることも
子供の顎顔面の成長発育は、上顎骨の成長発育は10歳ごろまで、下顎骨の成長発育は身長の増大期と今後大きく成長発育していきます。
幼少期からの噛み合わせを反対咬合のまま放置しておくと、反対咬合に適応してより下顎前突に成長発育するリスクも高まると考えられるため、早期にいちど反対咬合を解消しておくことが大切です。
幼少期の反対咬合や切端咬合の原因
骨格性下顎前突の要因がある場合
上顎に対して下顎の骨格的な成長が旺盛な場合や、逆に下顎に対して上顎が小さい、またはその双方、といった理由で反対咬合や切端咬合になっている場合があります。
顎顔面の成長発育には様々な要因が絡んでいるので幼少期に前歯の噛み合わせを治したからといって骨格的な問題が必ず解消されるとは限りませんが、それでもこのような場合には、前歯が反対咬合で噛んでいることなどにより上顎骨の成長発育が阻害されないように、早期にいちど噛み合わせを治すことが大切です。
歯形をとることが可能であれば、状況に合わせて様々な矯正装置が選択肢となりますが、乳歯列期にあたる幼少時には印象採得などが難しいことも多く、また効果が見込めることもあり、早期には印象採得の必要がない既製品(ムーシールドなど)の矯正装置を使用する方法もあります。
前歯の生え方で反対咬合になっている場合
下顎の前歯が前方に傾斜しすぎている、上顎の前歯が内側に傾斜しすぎているなどの理由で反対咬合になっている場合もあります。
例えば舌で下顎前歯を押し出す習慣があるなど、習癖(癖)が関与している場合には、まず癖が解消されるように習慣づけをすることが大切です。中には舌小帯という舌の裏側の筋が強すぎて舌を上にあげることができず、本来の正しい舌の動きができないことが要因になっている場合もあり、そのような、練習や意識づけだけでは癖が解消できないケースでは、強直した舌小帯を少し切除してもらうなどの処置が必要になることもあります。
幼少期における矯正装置の選択としては骨格性下顎前突とほぼ同様です。
前歯が邪魔になり顎を前に出して噛んでいる場合
奥歯が噛む前に前歯が当たってしまう場合には、上顎前歯を多少前方に傾斜させるなどの方法で、前歯を噛み合わせ上邪魔にならない位置関係とする必要があります。
習癖の除去などにより自然に解消すれば理想的です。しかしすでに反対咬合になっている場合には、噛む力そのものが反対咬合の状態を助長しているため、必要に応じて何かしらの矯正装置を併用します。
いずれにしても、奥歯が噛む前に前歯が当たってしまうということ自体、本来の顎位で噛んでも切端咬合程度には下顎前突の傾向があるということですので、その原因が骨格的なものか、習癖などと関連した歯性のものかを見極めて治療を進める必要もあります。
幼少期における矯正装置の選択としては上記とほぼ同様です。
小学生以降の成長発育の傾向と矯正治療
幼少期から矯正治療を開始したとしても将来の矯正治療を回避できるようになるわけではありません。
小中学生ぐらいの期間を通じて歯の生え替わりがあり、また成長期を通じて顔面骨格も成長して変化していきます。
一方、不正咬合の問題は反対咬合や切端咬合だけでなく歯並びのデコボコなど含め多岐にわたることが多く、矯正治療ではそれらの問題を総合的に勘案して最終的に永久歯列での歯並び・噛み合わせの完成を目指すものだからです。
顔面骨格の成長発育は、上顎骨の成長がまず10歳ごろで終了します。
骨格的な下顎前突の原因が上顎骨の劣成長で、上顎前方牽引装置などの矯正装置を使用して上顎の成長促進を行いたい場合には、10歳までに行う必要があるということになります。
一方下顎骨は、身長増大期に伴って成長します。
つまり女子の場合16歳ごろには概ね成長終了となりますが、男子の場合20歳ごろまで下顎骨は成長します。
上顎骨の成長終了後にさらに下顎骨が成長するため、骨格性の下顎前突の場合、小学生ごろと比較して高校生頃の方が下顎前突が強まるのが一般的です。
ある程度以上骨格性下顎前突が著しくなると歯の矯正治療だけでの治療は困難となり、顎骨の手術を併用する必要が生じる(顎変形症の外科矯正)ため、骨格性下顎前突の傾向が強い場合には下顎骨の成長終了までを見届けてから歯列矯正の方針を判断することとなります。
幼少期からの反対咬合の矯正治療を開始する意義
骨格的なアンバランスは将来の矯正治療を難しくしてしまいます。そのため、幼少期から矯正治療を始めてできるだけ良好な顎顔面の成長発育を促すことにより少しでも不正咬合の問題を軽度にし、将来の矯正治療をしやすくすることが狙いです。
将来の永久歯列期の矯正治療が不要になったりするわけではありませんが、反対咬合の場合は他のタイプの不正咬合と比較して早期に開始するメリットがはっきりとしていることが、子供の反対咬合はできるだけ早く矯正を始めた方が良い理由と考えられます。
いずれにしても。長期的な視野から子供の成長発育段階に合わせた適切な計画で矯正治療を進めることが重要です。