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大人・永久歯列の矯正 矯正の治療方針 顎変形症・外科矯正

顎変形症・外科矯正の概要と費用、健康保険の適用

2021年4月10日

顎変形症・外科矯正とは?

矯正治療が必要な不正咬合の中で、顎の骨の手術の併用が必要なものを「顎変形症」といい、顎骨の手術を併用した矯正治療を「外科矯正」といいます。
歯並び・噛み合わせは単純に歯だけの問題ではなく、歯の生えている土台となる、上あご(上顎骨)・下あご(下顎骨)の位置関係が根本的な要因となっています。極端に上下顎骨の位置関係がとても大きくズレている場合には、歯の矯正だけでは噛み合わせを治せないので、顎骨の手術併用が必要になります。
逆に言えば歯科矯正治療としては不必要に手術まで計画することはありません。
「歯の矯正だけでは噛み合わせをきちんと確立できない」ほど上下顎骨のバランスのズレが大き場合だけが外科矯正の適応となります。患者さんが希望をしても必ずしも外科矯正の方針となるとは限らず、矯正治療における抜歯/非抜歯の診断などと同様、基本的にはそれぞれの患者さんの治療上の必要性から判断することとなります。

外科矯正は普通の矯正とどこが違うのか?

歯の土台の位置関係を整えるので、歯並びや噛み合わせに無理がない

歯並びと歯の噛み合わせは、上下顎骨の位置関係を反映しています。
大抵の場合、上下顎骨の位置関係には多少なりともズレがあるので、歯並びはこの「骨格のズレ」を補う形で歯が生えています。
例えば、上顎骨に対して下顎骨が大きい(骨格性下顎前突)場合、骨格のバランス通りの歯並びにすると噛み合わせも受け口や切端咬合になってしまうので、上顎の前歯が前方に傾斜したり、下顎前歯が内側に傾斜したりして骨格のバランスを補ことで噛める形の歯並びになるわけです。
この上下顎の骨格的なズレがある程度までの場合は歯の生え方で補うことができる=歯の矯正だけで歯列矯正が可能です。
しかしある程度以上骨格のズレが大きいと、歯の生える土台の骨に対して無理な位置に歯を並べないと噛めるようにならないので、そのような矯正治療をおこなうと、顔貌と口元とのバランスが悪く不自然な歯並びになったり、見た目の問題だけでなく咀嚼や歯周病などにも悪影響のある噛み合わせとなってしまいます。
そのような場合に、手術で上下顎骨の位置関係を修正することで、比較的自然で歯にとって無理のない歯並びで噛み合わせが確立しやすくなるので、外科矯正の方針で矯正治療をおこなう方が適切ということになります。

顔のバランスも改善する

歯並び、とくに前歯の歯並びと噛み合わせは顔の雰囲気に大きな影響があります。
歯科矯正治療でも、顔貌と口元のバランスが良好に保たれるように考えて治療を行います。手術を併用しないいわゆる一般的な歯列矯正では、前歯の位置移動と相関した口元の変化により、顔貌のバランスが良い状態をとなるように治療を行います。しかし非外科ゆえ、骨格的なバランスや輪郭などが変化することはありません。
しかし外科矯正の場合は顔貌骨格を手術して治療するので、顔貌自体にも変化を伴う矯正治療となります。
・著しい骨格性上顎前突による口元の突出感の解消
・骨格性下顎前突による受け口の解消、あごの長い感じなどの緩和
・骨格的要因による顔貌非対称の緩和。
ただし、歯科矯正治療として外科矯正をおこなう場合には、「きちんと噛めるようにする」ことが第一目標で、顔貌の変化は(できるだけ良好な顔貌の変化を目的とするものの)二次的に得られる効果であり治療の主目的ではないという点については健康保険適用での外科矯正を開始する際に患者さんに理解いただくべきポイントとなります。

治療費用はどのくらい?

健康保険の適用となる外科矯正

顎変形症の外科矯正は、矯正治療のなかでは例外的に健康保険が適用となる矯正治療のひとつです。
ただしそのためには下記の条件をみたす必要があります。
・顎口腔機能診断施設としての施設基準を満たし、都道府県知事の指定をうけた保険医療機関で矯正治療をおこなうこと
・特定保険医療材料としてみとめられた歯科材料のみで治療をおこなうこと(アライナー矯正では保険適用できない)
・健康保険上さだめられた手順で治療をおこなうこと。必ず顎切り術の手術をおこなうこと
・健康保険適用の内容のみで治療をおこなうこと(混合診療の禁止)

外科矯正の矯正治療の部分をインビザラインなどアライナー矯正で外科矯正をおこなう場合、アライナー矯正は健康保険適用外になるため、連動して顎切り術の入院手術も自費診療で行う必要が生じます。
また、外科矯正の健康保険適用は「手術をおこなうことが前提」となっています。
治療方針の変更や治療中止などで手術を行わない場合は健康保険の適用とならず、それまでに健康保険から支払われた治療費をすべて返金し、あらためて自費で治療費用を支払いなおす必要が生じるので注意が必要です。

健康保険適用での矯正治療費用と健康保険適用までの手順

患者さんの希望に関わらず、治療方針が外科矯正になるかどうかが確定していない矯正治療開始前の【検査】【診断】の段階はひとまず自費診療で進める必要があります。
診断の結果、外科矯正の方針が確定し、なおかつ患者さんも外科矯正で矯正治療をされるということが確定したら、以降の治療を健康保険に切り替えてすすめることになります。
健康保険適用の矯正治療費についてはそのほかの治療と同様、法令により定められた保険点数の3割負担となるのが通常です。
健康保険治療では、処置内容により請求される保険点数が異なるため事前に正確な金額の予測ができませんが、矯正治療の自己負担額は治療の内容と段階に応じて2,000円〜20,000円程度が目安です。
入院手術については高額療養費の対象となります。高額療養費の自己負担額は所得により異なりますが、年収に連動して5万円程度〜25万円程度との制度になっています。
健康保険と高額療養費の適応により、外科矯正治療の矯正治療費とあわせても30~50万円程度、一般的な自費での矯正治療よりも治療費総額は少なくなるのが一般的です。

外科矯正が健康保険が適用とならないケースと費用

下記のような場合には外科矯正の方針でも健康保険の適用にはなりません。
・矯正歯科が【顎口腔機能診断施設】の指定をうけていない
・矯正材料が特定保険医療材料ではない(一部の審美的矯正装置・舌側矯正、アライナー矯正など)
・オトガイ形成など噛み合わせと関係ない手術が単独で行われる場合…
など。
健康保険適用とならない場合、矯正治療と入院手術の双方が自費診療となります。
自費診療の場合高額療養費制度も適応できませんので、片顎(上顎のみor下顎のみ)か、それとも上下顎か、その他に追加の手術があるかどうかなどで費用が異なります。医療施設によっても費用は異なりますが、内容により70万円〜200万円台程度となることが一般的と思われます。治療の総額は、上記手術入院費の他に矯正治療費用が必要です。

健康保険で外科矯正が可能な矯正歯科は?

健康保険適用でおこなう外科矯正はどこのクリニックでもできるわけではなく、【顎口腔機能診断施設】の指定をうけている矯正歯科で矯正治療をおこなう必要があります。
矯正歯科が顎口腔機能診断施設を申請するのに必要な代表的な要件としては、「矯正専門の歯科医師」が「常勤」で勤めている必要があります。
「矯正専門の歯科医師」とは、日本矯正歯科学会の認定医かそれに準じる実績・業績や、先天性疾患治療の実績等の諸条件があります。たとえば一般歯科治療のかたわら矯正診療を研修したなどの経歴では条件を満たせず、また「常勤」であることが条件となっているため、矯正専門医が診察していてる歯科医院でも常勤ではない(月に〜数回のアルバイト診療など)業態も対象とはなりません。
一方で矯正専門の歯科医師(矯正医)であっても顎口腔機能診断施設の申請をしていない場合も多々あるため、顎口腔機能診断施設でないからといって専門の研修をしていないとは限りませんが、顎口腔機能診断施設であれば、矯正医の在籍が確実ということにもなります。

要約

顎変形症と外科矯正とは?
顎変形症は、顎骨の位置関係に著しいズレがあるため、歯の矯正だけでは改善できない不正咬合の状態を指します。これに対し、外科矯正は、歯の矯正と顎骨の手術を組み合わせて噛み合わせを改善する治療法です。歯の矯正だけでは噛み合わせを正常にできない場合に適用され、顎骨の位置を手術で修正することで、骨格に対して自然な歯並び・噛み合わせと顔貌のバランス改善を目標とします。

外科矯正の特徴
歯と顎骨のバランス調整: 外科矯正では、歯だけの矯正では補いきれない顎骨のズレを手術で修正するため、顎骨に対して無理の少ない歯並びや噛み合わせが実現しやすくなります。
顔貌の改善: 外科矯正は顔貌骨格を手術で修正するため、顔のバランスも改善されます。たとえば、顎が突出している場合の受け口の解消、非対称な顔貌の緩和などが期待できます。ただし治療の主目的は噛み合わせの改善であり、できるだけ良好な顔貌の変化を目的とするものの主目的とはならず二次的な目的となります。

外科矯正の治療費用と保険適用
矯正治療をおこなうにあたり、外科矯正の方針が必須であることが保険適用の前提条件です。
健康保険が適用される場合: 外科矯正は、指定された条件を満たした顎口腔機能診断施設で、その他の要件を満たして外科矯正の治療が行われる場合、健康保険が適用されます。治療費の自己負担は3割となり、入院手術には高額療養費制度が利用可能です。
・顎口腔機能診断施設として指定された医療機関で矯正治療をおこなうこと
・特定保険医療材料を使用すること
・健康保険の規定に沿った治療手順で行うこと…など
健康保険が適用されない場合: 矯正歯科が顎口腔機能診断施設ではない場合や、アライナー矯正など特定保険医療材料に認められていない歯科材料を使用する場合などは健康保険が適用されず、治療費は全額自費となります。この場合自費の矯正治療費用に加え自費での入院手術費用(手術内容により70万円〜200万円台)がかかります。

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